マッチング理論と善きサマリア人ドナー
この本の中では、組み合わせを専門的に扱う学問分野である『マッチング理論』について分かり易く解説されている。実に面白い。
例えば、腎臓病の患者とドナーの組み合わせが相性良くなるように組み替えて(不適合カップルが適合カップルとなるように組み替える)、より多くの移植を実現するために、『マッチング理論』が適用される。
マッチング理論は、デビッド・ゲールとロイド・シャプリーが1962年に発表した論文で始まった応用数学の一種(数式が一つも出てこない論文とのこと)。
シャプリーはマッチング理論への貢献をたたえられ、2012年にアルビン・ロスとノーベル経済学賞を共同受賞している。
腎臓移植は誰の間でも可能というわけではない。
例えば、血液型などの適合性条件が存在する。
血液型が適合していない移植は、患者の体がドナーの腎臓を異物として判断してしまい、強い拒絶反応を起こしてしまう。
腎臓病患者(夫の太郎)がA型で、ドナー(太郎の妻、花子)がB型の場合は、不適合ペアとなってしまう。
しかし、不適合ペアが2組以上いるなら、ドナーを患者間で交換することで、適合性条件を満たし、移植が可能となる。
例えば、
腎臓病患者(太郎)がA型で、ドナー(太郎の妻の花子)がB型は不適合ペア
腎臓病患者(次郎)がB型で、ドナー(次郎の妻の良子)がA型は不適合ペア
だけど
各々のドナーを交換すると・・・
腎臓病患者(太郎)がA型で、ドナー(次郎の妻の良子)がA型は適合ペア
腎臓病患者(次郎)がB型で、ドナー(太郎の妻の花子)がB型は適合ペア
となる。
ドナーを患者間で交換するというのはスゴイ発想やなぁと思うけど、
これでメデタシ、メデタシ・・・ とはならない。
多数の不適合ペアがいるときに、どうやって適合ペアに組み替えていくか。
その方法は何通りもある(膨大な数の組み合わせ)。
その中で、ベストな組み合わせは存在するのか。何をもってベストとするのか。
ベストな組み合わせを決めるアルゴリズムはどういったものか。
それを理論化したものが、マッチング理論。
このアルゴリズム(トップ・トレーディング・サイクル・アルゴリズム)は決して、難解なものではなく、この本でも図を用いて、丁寧に説明してくれている。
著者は、アメリカに留学していたとき、このアルゴリズムを50歳前後の主婦の人たちに下手くそな英語で説明して、「なるほど」と思ってもらえたとのこと。
(私も「なるほど」と分かった(気になった))
マッチング理論を適用して腎臓移植を行う場合、患者とドナーの組み合わせが多数あればあるほど望ましい。
特に、適合する腎臓のタイプが稀にしか存在しない患者にとっては、ドナーの数が多くいればいるほど、適合する可能性が高くなる。
更に、無償のドナー(自分の腎臓の片方を見知らぬ誰かに寄付する人)がいることで、マッチングする数を増やすことが出来る。
この無償のドナーのことを「善きサマリア人ドナー」と呼ぶ。
親切な隣人の例として聖書の中に出てくるサマリア人にちなんで。
この本によると2012年のニューヨークタイムズに、なんと30人の患者と30人のドナーの手術が全て成功を収めたことが報道されたのこと。
そしてこの成功を支えたのが、善きサマリア人ドナーであるリック・ラザメンティ氏。
カリフォルニア州在住、ヨガを愛好する44歳の男性。
もちろん彼が30個の腎臓を寄付したということではない(笑)
一人の善意の寄付によって、30組の適合マッチング創出に貢献したということ。
(念のために言っておくが、この一人の寄付がなくても29組の適合マッチングが出来るというものではなく、連鎖的に破綻してしまう)
こうした寄付者は続々と現れており、別の善きサマリア人ドナーであるデビッド・コスター氏は言う。
マッチング理論の応用可能性は非常に大きい。
男性と女性の婚活パーティンでのカップリングや、研修医の病院への割り当てなどで実際にマッチング理論が適用されているらしい。
これについても、いつかブログで紹介したいと思う。